展示概要
石巻市立大川小学校は、宮城県石巻市釜谷山根にあった小学校であり、2011年の東日本大震災による津波により、児童108名中74名と教職員10名が犠牲となりました。その後、地震・津波発生時における防災計画や訓練が不十分であったことが明らかになりましたが、行政側は長年にわたり責任の所在を曖昧にし、事実関係の隠蔽に終始しました。これを受け、亡くなった児童のうち23人の遺族が真相究明を求め、2014年に石巻市および宮城県を提訴。2019年には、両者に対して約14億3,600万円の支払いを命じた仙台高等裁判所の二審判決が確定しました。
また、事故後の校舎の保存・解体をめぐっては、遺族や地域住民の間で議論が続きました。保存を求める声と解体を望む意見が対立するなか、最終的に石巻市は2016年3月、校舎を震災遺構として保存する方針を決定しました。しかし、保存決定後も校舎の劣化や維持管理に関する課題が顕在化し、2023年には天窓の修繕やコウモリの駆除など、約1,000万円をかけた補修作業が行われています。また、2021年に大川小学校の震災遺構とともに一般公開された大川震災伝承館の展示内容については、事故の詳細に十分触れていないとの指摘もあります。このように、小学校校舎の震災遺構としてのあり方や、伝承館の展示内容については、今なお議論が続いています。
一方、震災から15年を振り返ると、東日本大震災を題材とした映画やアート作品は数多く発表されていますが、その中で大川小学校の津波事故およびその後の経過に言及した作品は極めて少ないことに気づかされます。それは、行政責任の所在を問う遺族による国家賠償訴訟にまで発展した経緯もあり、この事故が「語りにくい過去」となっているからかもしれません。しかし、そのような状況下にあっても、例えば「大川伝承の会」は語り部として事故の原因や経緯を来館者に丁寧に伝える活動を継続しており、大川震災伝承館内の一部スペースを活用して独自の展示による情報発信も行っています。
本展では、この15年間に生まれた大川伝承の会の活動を含む伝承活動や表現活動に焦点を当てて紹介します。活動の内容は多様であり、行政と連携するものから、距離を置く立場を取るものまであります。また、遺族である14歳の少女たちの内面を描いた作品など、個人的な視点を通して伝える作品もあります。この展示では、これらの多様な伝承・表現活動を意図的に方向づけることなく、極力そのままの形で並置します。
なお、本展には「大学生」が出品者として参加している点が重要です。今後、震災を直接体験していない世代が伝承活動の担い手となることが期待されるなか、展覧会の運営を通じて、大学生がこの事故を取り巻く問題を咀嚼し、議論し、語る場を共に創造することは、大きな社会的意義を持つものと言えるでしょう。
本展の試みが、震災伝承、学校防災、そして地域行政のあり方について改めて問い直す契機となることを願っています。
会期
- 2026年3月8日（日）〜22日（日） 月曜休館
- 準備：2026年3月3日（日）〜7日（土）
- 撤収：2026年3月23日（月）
会場
東京工芸大学中野キャンパス6号館（6B01ギャラリーを予約済み）
イベント
教員や学生主催のトークイベント、ワークショップ、ギャラリーツアーなどを会期中に開催予定