ここでは、「ルールに基づいた造形」という観点から、様々なデザイナーやアーティストによる作品を概観してみます。年代も多様で、プログラミングによる造形の場合もありますし、そうでない場合もあります。しかし、ルールに基づいた造形がひとつの「普遍的な美」にまで高められていることが実感できるでしょう。
掲載すべき作品は無数にありますが、その全てを網羅するのは不可能なので、今回は私自身が好きな作品から選択しました。
マックス・ビル(Max Bill)
マックス・ビル(1908-1994)はスイスの建築家、アーティスト、画家、タイプフェイスデザイナー、インダストリアルデザイナー、グラフィックデザイナーとして活躍した多彩なクリエイターです。
機能を重視した造形が特徴で、数学的な真理に基づいた美を追求するコンクリートアート(具体美術)の先導者でもあり、その概念をデザインに応用させた、モダンデザインを代表するデザイナーの一人でもあります。
彼は、1935年から1938年にかけて作成した「quinze variations sur un même thème (ひとつのテーマに対する15のバリエーション)」で、ひとつのテーマを出発点として、15種類の様々なバリエーションを作りました。それぞれが厳密な秩序を維持しながら描かれているにも関わらず、遊びに満ちた画面構成となっています。「制約」が創造性のための基盤となっているという言い方もできるでしょう。
出典:Bill, Max(1995). Die grafischen Reihen (German Edition). G.Hatje, 24-31.
カール・ゲルストナー(Karl Gerstner)
カール・ゲルストナー(1930-)はスイス・スタイルのグラフィックデザイナー、タイポグラファーとして活躍しており、スイス・エアーのロゴデザインでも著名です。また、アーティストとしても精力的に作品を発表していて、彼のデザインとアート作品に共通している点は、形や色彩が生まれるシステムを丁寧に作り上げ、その中で表現のバリエーションを追求していることでしょう。「AlogRhythm」のシリーズでは、視点となる円のみによって構成されたグリッドを自在に組み合わせて独創的な形態を作り出しています。この作品の制作プロセスは、前掲のマックス・ビルによる「ひとつのテーマに対する15のバリエーション」と多くの共通点があります。
出典:Gerstner, Karl(1981). Spirit of Colors: The Art of Karl Gerstner. The MIT Press.
勝井三雄
勝井三雄(1931-)は日本を代表するグラフィックデザイナーであり、光と影を主題とした色鮮やかな作品や幾何的なパターンによる作品で知られています。1960年代の彩紋機による幾何図形のパターン作品や「黄と青の対比による7つのヴァリエーション」などは、コンピュータがデザインに使われていなかった時代から一貫してルールに基づく表現に執心していた事実が読み取れます。特に、「黄と青の対比による7つのヴァリエーション」は元となる図形を半分に切って、さらにそれらを組み合わせることによって様々なバリエーションを作り出しており、マックス・ビルの「ひとつのテーマに対する15のバリエーション」とはまた違う独自の方法で、形態と色彩の可能性を追求しています。
出典:
図22~24 勝井三雄(2003).『視覚の地平』. 宣伝会議.
図25~33 勝井三雄(2004).『視覚の領界 勝井三雄・デザイン visionary∞zone』. 勝井三雄デザイン展図録刊行委員会.
木本圭子
木本圭子は、1980年代後半から独学で数理的手法による造形を始め、2000年前後より動的表現を探る研究および制作を開始しました。作品形態は静止画、動画、立体など多岐に渡りますが、「運動」をどのように記述しうるか、が作家の探求の中心となっています。C言語によって記述されたプログラムでは、まるで点の集合が生物のように多彩な運動をし続けます。その作品は単純に美しいだけではなく、生命の起源やその成長過程までをイメージさせるほど多くを語りかけてくるのです。ここに掲載されている作品は、比較的初期の習作や無数のバリーエションの実験です。このような過程を経て選ばれたものだけが、作家の作品として発表されます。
出典:
図34,35 木本圭子(2003).『イマジナリー・ナンバーズ―コンピュータによるヴィジュアル・プログラミング・ラボラトリー 』. 工作舎.
図36~39 作者提供
Jared Tarbell
Jared TarbellはNew Mexico State Universityでコンピュータサイエンスの学士を授与されています。また、2005年には手製の製品をオンラインで販売するEtsyを共同で起業しました。現在は玩具などを製作販売するデジタルファブリケーション企業のLevitated Toy Factoryを運営しています。2003〜2004年にかけて制作された、生成的なアルゴリズムによるジェネラティブアートの手法を用いた彼の作品は、美しい抽象絵画のようです。
http://www.complexification.net/
Marius Watz
Marius Watzは抽象的な視覚表現と生成的な(ジェネラティブ)ソフトウェアのプロセスを制作するアーティストです。彼は制作において、パラメータによって変化する振る舞いの統合体としての生成物に興味を持っており、これはまさにプログラミングによる造形の大きな特徴といえます。そして、鮮やかな色彩も彼の作品の特徴です。
http://mariuswatz.com
Robert Hodgkin (flight404)
Robert Hodgkinはインタラクティブ・ディレクターであり、デザイン + テクノロジー・スタジオであるRare
Volumeの共同設立者。彼はRhode Island School of Designで彫刻の学生を取得しています。彼は、画像、音声、動画処理向けのC++ライブラリであるCinderの開発者として活動しています。
初期の作品にProcessingを使っているものが多いのですが、今見ても非常に高いクオリティに驚きます。
https://vimeo.com/658158
https://vimeo.com/8581392
https://vimeo.com/615344
https://vimeo.com/711364
Depart (Leonhard Lass and Gregor Ladenhauf)
Departは、Leonhard LassとGregor Ladenhaufによるアートユニット。オーストリアのウィーンで活動しています。この作品では、アルゴリズムによる造形が実写映像やプロジェクションマッピングによって統合されています。
http://www.vimeo.com/6799350
https://vimeo.com/30128944
Glenn Marshal
Glenn Marshalはコンピュータアーティスト、アニメーター。彼のアニメーションやインタラクティブ作品はプログラミングによって実現されています。
この作品は、フラクタルのアルゴリズムを使用した美しいアニメーションで、何ともいえない優美さを感じます。