51 Minutes and 13 Years 51分と13年
本プロジェクトは、東日本大震災時に宮城県石巻市の大川小学校で起こった津波による死亡事故を題材としたアートプロジェクトで、美術作家の野口靖と映像作家の三行英登が共同で制作している。
作者は地震発生から津波襲来までの51分間に、大川小で何が起こったと考えられているのか、また事故後の対応において、なぜ行政は遺族に寄り添うことができなかったのかなどについて、報道記事や書籍など事故後十数年のあいだに蓄積された様々な資料を丹念に調べるとともに、関係者への取材を重ねてきた。これらのリサーチを通して得られた「事実」をベースとしながら、独自の解釈を含む映像作品を中心に複数の映像を並置し、大川小学校の津波事故に内在する問題について多角的な視点を提示する。
Diverse and Universal Camera
Diverse and Universal Cameraは、エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ(以下EC)内の約300タイトルの映像を、踊る・笑う・回るなどの行動様式に関連するキーワードによって検索した際に、その結果がコラージュのようにループ再生する映像インスタレーションである。毎回映像の組み合わせが変わるので、時代や地域が異なる様々な映像の繋がりや差異を観察することが可能になる。ECの百科事典としての特性を再解釈し視覚化した作品だが、従来の紙の百科事典が可能とする偶然の出会いと、関連性を重視した現代のインターネット検索による知識の広がりの双方を可能にする媒体を目指した。各国の自国優先主義や移民問題を見ても、現代は世界中に不寛容な空気が蔓延していると言えるが、このような時代だからこそ、ECが記録してきた生物の行動様式が「多様」であることと同時に、「普遍」であることについて再考する時期が来ていると感じている。
Some Questions about Nuclear 核についてのいくつかの問い
2011年3月11日に起きた東日本大震災とその後の原子力発電所事故は、多大な被害と日本人の心に深い傷を残した。特に原発問題については「情報は誰のものか」という根本的な問いを私たちに投げかけた。事故当初から不完全な情報公開が批判されたにもかかわらず、市民が知り得るべき情報を政府が積極的に公開していく姿勢は見えなかった。しかし、事故からおよそ11年近く経った今、現在でも6万7千人強(2021年1月時点)の避難者や汚染水問題もあるにもかかわらず、この事故は多くの人々の記憶からは遠い存在となりつつある。
本プロジェクトは原発問題という高度に科学的、経済的、政治的、社会的な問題に対してアーティストとしてだけでなく一人の市民として何をすべきなのか、できるのかという問いから始まっている。
本作品は、「日本における食品中の放射性物質検査マップ」(2021年3月に全面改訂)と、「日本を含むアジアでのビデオインタビュー」の2点で構成されている。
Map:https://foodradiation.org/en/
Tokyo Air Raids Oral History Map 東京大空襲証言映像マップ
本作品は、東京大空襲体験者の証言映像を、東京の都市空間の変容を表す8層の地図と重ねあわせながら視聴することのできるデジタルアーカイブである。作者が開発したc-loc(クロックと読む)というデジタルマップソフトウェアを活用することによって、鑑賞者は20世紀初頭から現在に至る東京の時間と空間を移動しながら、その時代を生きた戦災体験者の証言映像を追体験できる。
現在は、第2次世界大戦の体験者が減少し、この戦争はまもなく生きた記憶ではなく、歴史的記録の一部に過ぎなくなろうとしている。このような危機的な状況を乗り越えるため、本作品は博物館の研究者、映像、デジタルメディアの専門家たちのコラボレーションによって、過去から現在をつなぐ試みとして制作された。
The Receipt Project レシート・プロジェクト
レシートプロジェクトは、参加型アートプロジェクトであり、なおかつ社会調査やデータの視覚化といった性格も持ち合わせている。このプロジェクトでは、美術館に訪れる来場者に各々のレシートを提供してもらい、それらは時間的地理的に積層したインスタレーションになる。そして、レシート情報は、データとして入力され、3次元グラフィックスになる。結果として参加者の行動、購買傾向、それらの購入履歴から店舗、その店舗が属する企業及び資本家の情報も検索される。レシートプロジェクトは、レシートのような些細なものを分析する事により、消費主義社会の中で私たちの振る舞い(特に消費)が、どのような権威によって制限あるいは誘導されているかを露わにする。