2022年度インタラクティブメディア概論A 第1回

      2022年度インタラクティブメディア概論A 第1回 はコメントを受け付けていません

自身の活動

アーティスト活動をしながら東京工芸大学の大学教員もしている。大学教員としての専門分野はソフトウェアデザインで、デザイン+プログラミング教育が中心。基本的に大学ではプログラミングの授業を教えている。https://r-dimension.xsrv.jp/classes_j/
10年間ぐらいは一般的にメディアアートと呼ばれる傾向のアート作品(コンピューターや電子機器などのテクノロジーを利用した芸術表現)を作っていたが、近年はあまりメディアテクノロジーそのものには興味がなくなっていて、映像作品が多くなっている。最近は、ソフトウェアと映像インスタレーションの形を取ることが多い。
アートで一番重要なのは、「思想」だと思う。自分は、今よりも少しでもいい社会を実現するためにアートに何ができるかを考えている。また、現在自身が関心あるメインテーマは「自由」「幸福」「正義」、サブテーマは「見えない社会構造」「埋もれている歴史」。これらは独立しているのではなくて互いに関連し合ったり重なり合ったりしている。

Diverse and Universal Camera

Diverse and Universal Cameraは、エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ(以下EC)内の約300タイトルの映像を、踊る・笑う・回るなどの行動様式に関連するキーワードによって検索した際に、その結果がコラージュのようにループ再生する映像インスタレーションである。毎回映像の組み合わせが変わるので、時代や地域が異なる様々な映像の繋がりや差異を観察することが可能になる。ECの百科事典としての特性を再解釈し視覚化した作品だが、従来の紙の百科事典が可能とする偶然の出会いと、関連性を重視した現代のインターネット検索による知識の広がりの双方を可能にする媒体を目指した。各国の自国優先主義や移民問題を見ても、現代は世界中に不寛容な空気が蔓延していると言えるが、このような時代だからこそ、ECが記録してきた生物の行動様式が「多様」であることと同時に、「普遍」であることについて再考する時期が来ていると感じている。

Justice

本作品は、時代も場所も離れた、しかし共通の主題を持つ二種類の映像によって構成されたビデオインスタレーションである。 ひとつは、1970年代の外務省機密漏洩事件(通称:西山事件)を発端として特定秘密保護法が成立されるまでの経過を、作者独自の解釈によって再構成した映像である。もうひとつは、2007年の西アフリカ・マリ共和国のセヌフォ社会における裁判の様子を記録したものであり、文化人類学者の溝口大助氏が研究資料映像として撮影したものを本作品のために編集したものである。
西山事件事件の経緯を辿ってみて感じたのは、あまりにも不条理な判決であるという点と「この国に国民の知る権利は存在するのか」という憤りだった。そして、この権利の所在は、現在でもあやふやなまま放置され続けているのではないかという危惧である。 一方、文化人類学者の溝口大助氏が撮影した、マリ共和国カディオロ県セヌフォ社会での呪術師による住民の裁判風景の映像を見たとき、西山事件とは違う次元の不条理な「裁き」を目の当たりにした。 これらの出来事を眺めた時、私たちが考える「正義」とは自明のことのようであって、実は非常に脆い価値観の上にかろうじて成り立っているものであるのかもしれないという思いが湧く。近年のイスラム国に代表されるようなイスラム原理主義者の主張に対して、私たちは果たして即座に断罪できるような強固な「正義観」を持ち得ているのだろうか。
普遍的な「正義」とは存在し得るのか。そして、もし存在するとしたら、その正義は一体どのようなものなのか。

Some Questions about Nuclear

■展覧会概要
2011年3月11日に起きた東日本大震災とその後の福島第一原子力発電所事故は、多大な被害と日本人の心に深い傷を残した。特に原発問題については、「情報は誰のものか」という根本的な問いを私たちに投げかけた。事故直後に日本政府が迅速に情報公開しなかったために多くの避難者が余計な被ばくをしたり、様々な「専門家」による放射能被ばくについての異なる立場からの発言が国民の混乱を招いた。また、現時点においても日本政府や東京電力は事故原因について国民に対する説明責任を十分果たしているとは到底言い難い。
しかし、事故からおよそ4年近く経った今、23万人強(2014年12月時点)の避難者や汚染水問題もある中で、この事故は多くの人々の記憶からは遠い存在となりつつある。また、不完全な情報公開が批判されたにもかかわらず、市民が知り得るべき情報を政府が積極的に公開していく姿勢は今のところ見えない。
このプロジェクトは原発問題という高度に科学的、経済的、政治的、社会的な問題に対してアーティストとしてだけでなく一人の市民として何をすべきなのか、できるのかという問いから始まっている。プロジェクトは以下の2点で構成されている。


●日本における食品中の放射性物質検査マップ
厚生労働省と東京電力がそれぞれ公開しているデータを統合した、インタラクティブマップとなっている。このマップの大きな特徴は、チェルノブイリ原発事故後の各国各機関における食品中の放射性物質基準値が比較できるという点である。事故直後には日本の暫定基準値は緩すぎるという批判を受けたが、実際に各国の基準値が客観的に比較できる資料は世界的に見ても皆無に近い。ならば自分で作ってみようと思い作品化した(web上で公開予定)。情報を「市民のものとして取り戻す」ことと「発信するメディアを自ら作り出す」試みである。


●日本を含むアジアでのビデオインタビュー
日本、ベトナム、インドという、今後の原発政策と非常に関係の深い国々において、避難者、科学者、市民活動家などの多様な立場の方々に同じ質問をした回答を、ビデオインスタレーションとしてまとめた。なるべく原発推進 vs. 脱原発のような二項対立にならないように、異なる立場の方々に交渉した。何人かは交渉途中で連絡が途絶えたり、問い合わせに対する反応がなかった場合もあるが、今後もしインタビューが実現すれば随時更新していく予定なので、交渉した相手の情報は作品内に含めた。震災の時の総理大臣であった菅直人氏にも取材を申し込んだが、胡散臭いと思われたのか、途中で連絡が途絶えた。

Tokyo Air Raids Oral History Map

●筆者は2007年からc-loc(クロックと読む)と名付けた時空間マップソフトウェアの開発を始め、現在に至る。「東京大空襲証言映像マップ」はこのc-locのコンテンツとして制作されたものである。


●時空間マップソフトウェア(c-loc)とは時空間マップソフトウェア(c-loc)は、時間を縦軸、空間を横軸として3D空間上に立体的なマップを表示する、時空間データを視覚化するためのソフトウェアである。時間地理学の概念をプログラム化したものであり、主に歴史学、文化人類学、地理学などの分野の研究成果を分かりやすく表示することが可能である。また、文章、音声、画像、映像をオブジェクトとして登録することができ、それぞれのオブジェクトはカテゴリ/サブカテゴリを設定することができる。


●「東京大空襲証言映像マップ」とは「東京大空襲証言映像マップ」は、東京大空襲・戦災資料センターのプロジェクトとして、山本唯人(ディレクション)、早乙女愛(映像制作)、筆者(デジタルメディア・ソフトウェア制作)を中心に制作されたものである。この作品は、1人15〜20分程度の証言映像をライフイベントごとに分節化して時空間マップ上に配置したものであり、筆者が開発したc-locが使用されている。筆者はソフトウェアを提供する役割を担ったため、コンテンツ制作に直接は関わっていないが、作品をより魅力的にするためにプログラム自体を改変する作業や助言を行った。この「東京大空襲証言映像マップ」は、1919年から2000年の間に8層の旧地図が年代順に配置されている。そして、この各年代の旧地図の間に配置された人型のシンボルをクリックすることにより、その時・その場所での体験を語る証言者の証言映像を視聴できる。

The Receipt Project

レシートプロジェクトは、参加型アートプロジェクトであり、なおかつ社会調査やデータの視覚化といった性格も持ち合わせている。このプロジェクトでは、美術館に訪れる来場者に各々のレシートを提供してもらい、それらは時間的地理的に積層したインスタレーションになる。そして、レシート情報は、データとして入力され、3次元グラフィックスになる。結果として参加者の行動、購買傾向、それらの購入履歴から店舗、その店舗が属する企業及び資本家の情報も検索される。レシートプロジェクトは、レシートのような些細なものを分析する事により、消費主義社会の中で私たちの振る舞い(特に消費)が、どのような権威によって制限あるいは誘導されているかを露わにする。

色の国際科学芸術研究センターの活動

本学の色の国際科学芸術研究センターのセンター長を務めている。また、厚木キャンパスにあるカラボギャラリーで企画展を行なっている。