2023年度インタラクティブメディア概論A 第1回

      2023年度インタラクティブメディア概論A 第1回 はコメントを受け付けていません

自身の活動

アーティスト活動をしながら東京工芸大学の大学教員もしている。大学教員としての専門分野はソフトウェアデザインで、デザイン+プログラミング教育が中心。基本的に大学ではプログラミングの授業を教えている。
https://r-dimension.xsrv.jp/classes_j/
10年間ぐらいは一般的にメディアアートと呼ばれる傾向のアート作品(コンピューターや電子機器などのテクノロジーを利用した芸術表現)を作っていたが、近年はあまりメディアテクノロジーそのものには興味がなくなっていて、映像作品が多くなっている。最近は、ソフトウェアと映像インスタレーションの形を取ることが多い。

私の全ての活動における関心事は、「私たちが尊厳を持って生きられる社会はどう実現できるか」である。「私たち」とは、人間のみならずこの世に生きるあらゆる生物を指す。この関心に基づき、現在、各プロジェクトのテーマを「自由」「人権」「幸福」「正義」「見えない社会構造」「埋もれている歴史」として活動している。これらのテーマはそれぞれ独立しているのではなく、互いに重なりあい関係しあっている。
なお、各プロジェクトの表現手法は、データビジュアライゼーション、ドキュメンタリー映像、体験型インスタレーションの形をとることが多い。
https://yasushinoguchi.org/

Confession

本作品は、岩手県釜石市の被災者であるの木村正明さんのインタビューと、津波体験を題材にした架空の物語による2種の映像を組み合わせたものである。岩手県釜石市鵜住居にある「いのちをつなぐ未来館」で2020年2月に発表した。この施設は推定で200名以上が亡くなった防災センターの跡地に建てられており、すぐそばに慰霊碑がある。
木村さんは新日本製鐵の元社員でもあり、東日本大震災の際ご家族が津波の被害にあわれたことから、その半生は釜石の歴史と共にあると言える。また、鵜住居小学校の児童と釜石東中学校の生徒の大半が助かったが、木村さんの妻のタカ子さんは小学校に一人残り行方不明となった。
一方で、様々な津波体験記を読むと、津波に巻き込まれた時の生死の境が本当にほんの僅かな「運」や「判断」の違いによるものだったということを痛感する。また、その瞬間に思うことは、最愛の家族や、早く逃げればよかったという後悔、これも運命なのかという諦め、この場で遺体が見つかってほしいという願いなど、非常に多岐にわたっていた。そして、もし自分が津波に巻き込まれたらその瞬間何を思うのかということが頭を巡った。そのような思いで架空の物語による津波体験談を構想した。

Confession + Whereabouts

本作品は、津波を主題とした作者と劇団一の会の共同作品であり、岩手県釜石市のいのちをつなぐ未来館で自身が2020年2月に展示した映像インスタレーション「告白」がきっかけとなっている。
この「告白」のテーマを再解釈する形で、劇団一の会が新たな演劇「行方」のストーリーを作成し、さらに「告白」の2面スクリーンを演劇の空間に取り込んで独創的な演劇空間を生み出した。

Confession in Seven Days

岩手県釜石市で「社会的記憶の継承」という主題での企画展示に参加する機会があり、この際の調査の中で釜石市、陸前高田市、宮城県石巻市などで実際にあった様々な津波の体験談に触れた。
これらの津波体験記を読むと、津波に巻き込まれた時の生死の境が、本当にほんの僅かな「運」や「判断」の違いによるものだということを痛感する。そしてこれらの体験記を読んだ後、助かった方もそうでない方も津波に巻き込まれた瞬間何を考えたのかということが頭を巡った。最愛の家族のことなのか、早く逃げればよかったという後悔なのか、これも運命なのかもしれないという諦めなのか、この場で遺体が見つかってほしいという願いか。津波を体験していない私にはどうあがいても実体験としては語れないが、想像することはかろうじて可能だ。そのような思いで架空の物語による津波体験談を創作した。
元々は、2画面構成の映像インスタレーション「告白」の一部だったが、津波体験談の映像(右スクリーン)を再編集し、一つの映像作品として独立させた。

映像はPC上で再生

Diverse and Universal Camera

Diverse and Universal Cameraは、エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ(以下EC)内の約300タイトルの映像を、踊る・笑う・回るなどの行動様式に関連するキーワードによって検索した際に、その結果がコラージュのようにループ再生する映像インスタレーションである。毎回映像の組み合わせが変わるので、時代や地域が異なる様々な映像の繋がりや差異を観察することが可能になる。ECの百科事典としての特性を再解釈し視覚化した作品だが、従来の紙の百科事典が可能とする偶然の出会いと、関連性を重視した現代のインターネット検索による知識の広がりの双方を可能にする媒体を目指した。各国の自国優先主義や移民問題を見ても、現代は世界中に不寛容な空気が蔓延していると言えるが、このような時代だからこそ、ECが記録してきた生物の行動様式が「多様」であることと同時に、「普遍」であることについて再考する時期が来ていると感じている。

Justice

本作品は、時代も場所も離れた、しかし共通の主題を持つ二種類の映像によって構成されたビデオインスタレーションである。 ひとつは、1970年代の外務省機密漏洩事件(通称:西山事件)を発端として特定秘密保護法が成立されるまでの経過を、作者独自の解釈によって再構成した映像である。もうひとつは、2007年の西アフリカ・マリ共和国のセヌフォ社会における裁判の様子を記録したものであり、文化人類学者の溝口大助氏が研究資料映像として撮影したものを本作品のために編集したものである。
西山事件事件の経緯を辿ってみて感じたのは、あまりにも不条理な判決であるという点と「この国に国民の知る権利は存在するのか」という憤りだった。そして、この権利の所在は、現在でもあやふやなまま放置され続けているのではないかという危惧である。 一方、文化人類学者の溝口大助氏が撮影した、マリ共和国カディオロ県セヌフォ社会での呪術師による住民の裁判風景の映像を見たとき、西山事件とは違う次元の不条理な「裁き」を目の当たりにした。 これらの出来事を眺めた時、私たちが考える「正義」とは自明のことのようであって、実は非常に脆い価値観の上にかろうじて成り立っているものであるのかもしれないという思いが湧く。近年のイスラム国に代表されるようなイスラム原理主義者の主張に対して、私たちは果たして即座に断罪できるような強固な「正義観」を持ち得ているのだろうか。
普遍的な「正義」とは存在し得るのか。そして、もし存在するとしたら、その正義は一体どのようなものなのか。

Some Questions about Nuclear

2011年3月11日に起きた東日本大震災とその後の原子力発電所事故は、多大な被害と日本人の心に深い傷を残した。特に原発問題については「情報は誰のものか」という根本的な問いを私たちに投げかけた。事故当初から不完全な情報公開が批判されたにもかかわらず、市民が知り得るべき情報を政府が積極的に公開していく姿勢は見えなかった。しかし、事故からおよそ11年近く経った今、現在でも6万7千人強(2021年1月時点)の避難者や汚染水問題もあるにもかかわらず、この事故は多くの人々の記憶からは遠い存在となりつつある。
本プロジェクトは原発問題という高度に科学的、経済的、政治的、社会的な問題に対してアーティストとしてだけでなく一人の市民として何をすべきなのか、できるのかという問いから始まっている。
本作品は、「日本における食品中の放射性物質検査マップ」(2021年3月に全面改訂)と、「日本を含むアジアでのビデオインタビュー」の2点で構成されている。

Map:https://foodradiation.org/en/

Tokyo Air Raids Oral History Map

本作品は、東京大空襲体験者の証言映像を、東京の都市空間の変容を表す8層の地図と重ねあわせながら視聴することのできるデジタルアーカイブである。作者が開発したc-loc(クロックと読む)というデジタルマップソフトウェアを活用することによって、鑑賞者は20世紀初頭から現在に至る東京の時間と空間を移動しながら、その時代を生きた戦災体験者の証言映像を追体験できる。
現在は、第2次世界大戦の体験者が減少し、この戦争はまもなく生きた記憶ではなく、歴史的記録の一部に過ぎなくなろうとしている。このような危機的な状況を乗り越えるため、本作品は博物館の研究者、映像、デジタルメディアの専門家たちのコラボレーションによって、過去から現在をつなぐ試みとして制作された。

The Receipt Project

レシートプロジェクトは、参加型アートプロジェクトであり、なおかつ社会調査やデータの視覚化といった性格も持ち合わせている。このプロジェクトでは、美術館に訪れる来場者に各々のレシートを提供してもらい、それらは時間的地理的に積層したインスタレーションになる。そして、レシート情報は、データとして入力され、3次元グラフィックスになる。結果として参加者の行動、購買傾向、それらの購入履歴から店舗、その店舗が属する企業及び資本家の情報も検索される。レシートプロジェクトは、レシートのような些細なものを分析する事により、消費主義社会の中で私たちの振る舞い(特に消費)が、どのような権威によって制限あるいは誘導されているかを露わにする。

色の国際科学芸術研究センターの活動

本学の色の国際科学芸術研究センターのセンター長を務めている。また、厚木キャンパスにあるカラボギャラリーで企画展を行なっている。