この授業は、アートやデザイン分野の学生にプログラミングを効率よく学習させるため組み立てられたものです。
現在のアートやデザインにおいて、プログラミングの知識があるという事実は、基礎的な教養としても、就職の際のスキルにしても年々その重要度が高まっています。しかし、芸術系の学生にとってはその敷居が高いのも事実です。
よって、この授業ではプログラミングによってグラフィックの描画やサウンドのエフェクト、動画のエフェクト、ネットワークなどの、直接表現に結びつく実践的な方法を学びます。
開発環境は、processingを利用して行います。processingは、マサチューセッツ工科大学で開発されたプログラミング教育用ツールです。
非常に短いコードでプログラムが書けるようになっていますので、初心者でも心配する必要はありません。
位置づけとしては1年のメディアプログラミング演習Iの応用編ですが、メディアプログラミング演習Iを選択していない学生も対応できるようにカリキュラムは構成されています。ですから、引き続き勉強したい人はもちろんのこと、1年次にプログラミングの授業を取っていない人は挑戦し、挫折してしまった人はリベンジをしてみましょう。
1. 何故、アートやデザインにプログラミングが必要なのか
学生と話をしていてプログラミングの話をすると、急に暗い顔になり、「ああ、苦手」という言葉がよく返ってきます。おそらくその学生たちは、プログラミングの学習の仕方がいまいち分からないのと、その深遠な可能性がまだ見えて来ていないのでしょう。それは、教える側の責任もあると思います。実際、自分も独学でJavaを勉強しようとした時、一度挫折しました。しかし、何年か後にもう一度勉強し直してプログラミングができるようになったのです。
ですから、現時点でプログラミングに対する苦手意識がある学生でもいつでもやり直せると考えています。要は、なぜ勉強しなくてはならないのかと、どうやって勉強するのかをもう一度見直せばいいのです。
あともう一つ、プログラミング=数学だと思っている学生も多いでしょう。確かにそうなのですが、数学が苦手でもプログラミングが苦手だとは限りません。実際私も数学は得意ではありません。しかしプログラミングは楽しいと思いました。自身の数学の苦手意識を超える面白さがプログラミングにはあったのだと思います。
ですから、数学が苦手だから無理だ、などという先入観は捨てて、新たな気持ちで臨んでもらえればいいと思います。
プログラミング言語の知識を持っておくということは、例えば建築家が数学の知識があるのと同じようなものだと考えてもいいでしょう。例えば、アートプロジェクトやwebサイト構築などを行なうにしても、実際の現場ではプログラマーとの共同作業という状況が多々あります。その際にプログラミング言語の知識があるのとないのでは大きな違いがあります。プログラミング言語の知識がないアーティスト/デザイナーやディレクターの言うことなんて、プログラマーは聞かないでしょう。もしくは仕方なく聞いていても、内心は馬鹿にしているかもしれません。
また、このステップを避けて通ってしまうと、結局はソフトウェアの範囲内でしかものを作れず、既に何年も前に発表された作品の二番煎じ的なものしか作れないのです。自己満足的なことをしたければそれでもいいでしょう。しかし、少なくとも私のこの授業では、新しいメディアアートの可能性を垣間見せてくれる表現者を育てたいと考えています。
ですから、理想的なアプローチとしては、まずアイデアを洗練させ、そのプロジェクトに最適なメディアやプラットフォームを選ぶ。ですから、場合によってはMax/MSP、Flash、Processingでもいいかもしれません。しかし、調べてみたら、これは別の言語(Java、Cなど)を選択しないとアイデアを実現させることが難しいと分かったとします。その際にはそれらの言語を短期間で習得するぐらいの馬力が必要になってきます。要は、様々なアイデアを実現させるために、基礎体力をつけておく必要があるのです。
そのような底力のある学生の育成がこの授業の目的です。
2. カリキュラム構成のキーワード
【表現的側面】
点、線、図形、色彩、アニメーション、インタラクション(キーボード入力、マウス入力)、サウンド、ビデオ入力、ネットワークコミュニケーション
【アルゴリズム的側面】
変数、変数の型、if、else、for、while、switch、配列(1次元配列 〜 n次元配列)、sine、cosine
3. 参考作品
●2009年度2年グラフィカルプログラミング演習参考作品
(サウンドヴィジュアライザ)
Processingで音の周波数解析を使い、音楽にグラフィックがリアルタイムに反応するサウンドヴィジュアライザを作成している。
ドキュメントビデオ
●2008年度2年グラフィカルプログラミング演習参考作品
(インタラクティブアート)
Processingを使い、リアルタイム画像処理、ネットワーク、サウンドなどを使ったアート作品を制作した。
ドキュメントビデオ
4. 評価
出席率 50%、小課題 10%、中間課題 15%、 最終課題 25%
5. 備考
この授業は、Processingのバージョン1.1を使用して行います。ダウンロードする際には間違えないようにしてください。
6. スケジュール
この授業は前期のみの開講です。
基本的には1年のメディアプログラミング演習Iの続きなのですが、最初の4週はその復習もかねてプログラミングの基礎的な演習を行ないます。
その後、画像処理エフェクト、サウンド、ネットワークなどの応用実習を行ないます。
■4/15 – 第1回 プログラミングの基礎1
自己紹介
なぜインタラクティブアート/ソフトウェアアートにプログラミングが必要か
なぜprocessingなのか
参考書・参考サイト
【技術的側面】
変数、デバッグ、コメントアウト、コードを分かりやすく書くということ、while, forの理解、
■4/22 – 第2回 プログラミングの基礎2
前回の復習 forの入れ子
条件分岐(if, else if, else)
色彩(RGB、HSBなど)
小課題1:forの入れ子構造を使って、美しいパターンを作成しなさい。point、line、ellipse、rect、triangle、quadを使用していい。色彩は自由。
300 x 300pixelの画面を使用する。
■5/6 – 第3回 アニメーション、インタラクション
アニメーション
インタラクション(キーイベント、switch、マウスイベント)
参考:その他のアニメーションの方式(3D)
1. オブジェクトの作成
2. オブジェクトの移動、回転
3. 座標の保存(pushMatrix, popMatrix)
4. vertex(頂点)を使用した図形の描画
5. ライト
6. カメラ
■5/13 – 第4回 自立的なオブジェクト(配列)
小課題2:1次元配列を利用して、「有機的に変化する現象」を表現しなさい。500 x 500ピクセル以内の画面に表現(縦横自由)。アニメーションとインタラクションがあること。形態、色彩自由。
【有機的】
有機体のように、多くの部分が緊密な連関をもちながら全体を形作っているさま。「—な構造」
【有機体】
生活機能をもち、有機物からなる組織体。生物のこと。
- 大辞泉より引用 –
■5/20 – 第5回 現実世界を変換する(画像処理1)
関数による部品(モジュール)化
ライブラリの利用
画像処理1(基礎編)
画像処理2(フレーム差分、背景画像の黒抜き)
中間課題:これまでの実習をもとにして、カメラからのリアルタイム映像を利用して人に反応したり取り込んだ映像にエフェクトをかけるインタラクティブアート作品を作成しなさい。画面は640 x 480 pixel。使いたい人は別のライブラリを利用してもかまわない。
■5/27 – 第6回 中間課題の制作時間
■6/3 – 第7回 中間課題発表
■6/10 – 第8回 曲線運動(sine, cosine)
小課題3:実習を元にして曲線運動を使い、「春夏秋冬」のうちどれかひとつの季節を表現しなさい。
500 x 500ピクセル以内の画面に表現(縦横自由)。アニメーションがあること。インタラクションはあってもなくてもいい。形態、色彩自由。
■6/17 – 第9回 サウンド1
■6/24 – 第10回 サウンド2
■7/1 – 第11回 ネットワーク
■7/8 – 第12回 制作期間
■7/15 – 第13回 制作期間
■7/22 – 第14回 講評
最終講評(ゲスト-藤本直明さん)
7. 最終課題
条件:
以下のテーマをもとに、自由に表現しなさい。
TRANSFORM
1 …の形[様相, 構造]を(…から;…に)変える, を変形[変態]させる
2 …の状態[性質, 特色, 機能, 用途]を(…に)変える⦅into, to …⦆;〈物を〉別の物質にする
3〘電気〙…を変圧[変流]する;〘物理学〙〈エネルギーを〉(…に)変化させる⦅into …⦆
4〘数学〙〈図形式を〉変換する.
5 〈細胞に〉遺伝子変化を起こさせる.
・制作するものは次のカテゴリーに関連する作品にする。ソフトウェアアート、インタラクティブアート、インスタレーション。
・必ず、授業で学習した内容を反映させること。
・電子工作などの他の授業でやったことを組み合わせてもかまわない。
・画面の大きさは自由だが、なるべくフルスクリーンで見ることができるものが望ましい。